刑事処分と行政処分
風営法その他の法令を違反した時のペナルティにはおおむね2種類あります。
一つは刑罰を課すための「刑事処分」であり、もう一つは「行政処分」です。
刑事処分
風営法の遵守事項の中には罰則が定められているものが多くあります。
罰則規定のある法令に違反した時には、司法警察職員(一般的には警察)による犯罪捜査、そして書類送検後の検察官による起訴から刑事裁判、という刑事訴訟法の流れに従って処理され、最終的には懲役や罰金、科料などの刑罰が科されます。
殺人や窃盗などに対する処分と同様、司法が下す処分です。
なお、罰則規定に違反して刑事処分を受けたからといって、行政処分が課されないわけではありませんのでご注意ください。
行政処分
行政庁が風俗営業者に許可を出し、適正に営業がなされるよう指導監督することが都道府県公安委員会の役割ですが、もし風俗営業者が法令に違反した場合には、「許可取消し」「営業停止」「指示」という3つの処分を行うことができます。
行政庁によるこれら一連の行為を「行政処分」と言いますが、営業許可をだすことも行政処分です。
つまり、行政庁が行う判断という意味です。
行政処分の詳細は法令違反の内容と、その違反状況によって異なり、各都道府県公安委員会は警察庁が定めたモデル処分基準を目安にして処分を行ないます。
風営法第8条の営業許可の取消し
風営法の第8条では公安委員会が許可を取り消しできる場合を4つあげています。
これらは風俗営業の適正化のための段階的処分ではなく、制度として許可を与えておくわけにゆかないようなケースをとりあげています。
①偽りその他不正の手段により当該許可又は承認を受けたこと。
②第四条第一項各号に掲げる者のいずれかに該当していること。
③正当な事由がないのに、当該許可を受けてから六月以内に営業を開始せず、又は引き続き六月以上営業を休止し、現に営業を営んでいないこと。
④3月以上所在不明であること。
「②」はいわゆる人的欠格要件です。風俗営業の許可を受けるために満たすべき要件のことで、風俗営業の経営者又は役員等が該当していてはならない要件を意味します。
<欠格要件に該当した場合>であっても、すみやかに是正、回復することができ、かつ、現に是正、回復している場合等で、悪意がない又はごく軽微な違反である場合を除き、許可を取り消されることがあります。
たとえば役員就任後に、その役員が人的欠格要件に該当していたことが判明しても、法人が速やかにその役員を解任する手続を始めている場合は、許可取消しに至ることは通常ありません。
なお、平成18年5月から施行された改正法では欠格事由が拡大され、たとえば承認なしに構造設備を変更し営業するなどの行為によりされた罰金刑に処された法人又は経営者は欠格事由に該当することになりました。
③.」の規定における「正当な事由」の解釈については、「経済情勢の変化や自然災害の発生等許可を受ける時点では予測し得なかった事態が発生したこと等営業を開始できない、又は営業を休止せざるを得ないことについて合理的な理由がある場合をいう。したがって、単なる経営不振や資金入手の見込み違いにより営業の開始又は再開が見込めない場合については「正当な事由」にあたらない」とあります。
☆行政処分の量定表(のぞみ合同事務所)↓
http://thefirm.jp/P-PDF201301.pdf
風営法第26条の行政処分
第26条では、業務の適正化のため、違反の程度に応じて行政処分を行います。
次の場合には、公安委員会は風俗営業の許可を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて当該風俗営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができます。
①法令及び条例に違反し、しかも著しく善良の風俗もしくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全の育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき
※風俗営業者が営業に関して法令違反をしたことに対して行う処分です。営業許可を与えた公安員会としては、違反した事業者に対して「許可を返せ」と言えるし、お仕置きとして「営業をしばらく停止せよ(6か月以内ですが)」とも言えるし、軽微な違反については「こいう改善をせよ」などと指示をすることができます。
※公安委員会が営業停止又は指示の処分をした後で、営業者がその処分に従わないで営業を継続したり、指示を守らなかった場合には、公安委員会はさらに重い行政処分を下すことができます。
※風俗営業を許可するとき、又は風俗営業者に特殊な事情(保全対象施設が営業所付近に開設されたなど)が生じたときには、公安委員会は許可に条件を付すことがあります。その条件に違反する行為が行われたときは、公安委員会は行政処分を下すことができます。
営業許可の取消し、営業停止、営業禁止命令、営業廃止命令
営業をできなくするための処分は営業の種別に応じて形態と呼び方が異なりますが、考え方はほぼ同じです。
風俗営業であれば「許可の取消し」がありえますが、ここではこれらの行政処分(営業停止、営業禁止命令、営業廃止命令を含めて)について「許可の取消し等」と表現します。
法令違反があった場合でも、通常はすでに指示処分が行われ、その指示処分に従わない場合に「許可の取消し等」となりますが、次のような場合は健全営業の見込みがないということで、ただちに「許可取消し等」の処分を下すことがあります。
①短期間に同じ違法行為を繰りかえすなど、行為が悪質な場合
②指導や警告を無視し、指示処分では改善の見込みがない場合
③指示処分の期間中に、当該指示処分には違反していないが、当該指示処分の処分事由にかかる法令違反行為と同種の法令違反行為をおこなった場合
④罰則の適用がある法令の違反で検挙され、起訴相当で送検された場合
⑤短期20日以上の量定に相当する処分事由にあたる違反行為の場合
モデル処分基準
営業停止の処分は6月を超えない範囲でなされますが、停止期間は違反行為の程度によって異なり、モデル処分基準(別表)の量定が根拠となります。詳細は下記リンク「処分の量定」の警察庁資料をご覧ください。
なお「営業停止」「許可取消し」等の場合は公開の聴聞手続を経て処分がなされ、指示については弁明の機会が与えられます。
指示処分
「指示」は違反の防止及び違反状態からの改善のための措置を示すもので、営業者の自主的な努力を促すための行政処分です。
指示通りに対応すればそれでよいのですが、特例風俗営業者の認定を受けるためには過去10年間に指示処分を含めた処分が無いことが要件とされています。
また、同種の違反行為を短期間に繰り返した場合は営業停止などの重い処分を受けることにいなります。
「指示」は比例原則にのっとって、営業者に過大な負担を課さないように行います。
また、指示の内容は、違反状態の解消のための措置、将来の違反の防止のための措置等を具体的に示されます。
「一定期間内に〇〇をして報告せよ」という指示もありますが、その一定期間内に報告できなければ指示処分違反という別の違反となりますので、指示を受けた場合は指示内容をよく見て、指示されたことを確実に実施してください。
重い処分になりやすいとき
営業中に次のような行為を行ったときは営業停止以上の処分を受けやすい傾向があります。
年少者(18歳未満)を雇って客に接待させたとき。
客引き
構造設備又は遊技機の無承認変更
広告宣伝規制違反を短期間に繰り返したとき
これ以外の違反でも営業停止がありえるということはご理解ください。
◎関係法令抜粋
風営法法第八条 公安委員会は、第三条第一項の許可を受けた者(第七条第一項、第七条の二第一項又は前条第一項の承認を受けた者を含む。第十一条において同じ。)について、次の各号に掲げるいずれかの事実が判明したときは、その許可を取り消すことができる。
一 偽りその他不正の手段により当該許可又は承認を受けたこと。
二 第四条第一項各号に掲げる者のいずれかに該当していること。
三 正当な事由がないのに、当該許可を受けてから六月以内に営業を開始せず、又は引き続き六月以上営業を休止し、現に営業を営んでいないこと。
四 三月以上所在不明であること。
第二十五条 公安委員会は、風俗営業者又はその代理人等が、当該営業に関し、法令又はこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるときは、当該風俗営業者に対し、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な指示をすることができる。
第二十六条 公安委員会は、風俗営業者若しくはその代理人等が当該営業に関し法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき、又は風俗営業者がこの法律に基づく処分若しくは第三条第二項の規定に基づき付された条件に違反したときは、当該風俗営業者に対し、当該風俗営業の許可を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて当該風俗営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
2 公安委員会は、前項の規定により風俗営業(第二条第一項第四号、第七号及び第八号の営業を除く。以下この項において同じ。)の許可を取り消し、又は風俗営業の停止を命ずるときは、当該風俗営業を営む者に対し、当該施設を用いて営む飲食店営業について、六月(前項の規定により風俗営業の停止を命ずるときは、その停止の期間)を超えない範囲内で期間を定めて営業の全部又は一部の停止を命ずることができる。